INDEX

第一章 

5話)芽生の家




「・・・お味噌汁、温め直すから、ちょっと待っていてね。」
 言って、ガス台に火をつけて、いつものようにまずは炊き立てご飯を、茶碗によそった。もちろん量は大盛りだ。
 オカズも大好きながら、翔太は何よりも“米”に目がないのは、芽生は知っている。
 松浦家の、米に対する“こだわり”はちょっとしたもので、自分達の好みの米を、産地から直送してもらっているほどだった。
 もう十年ちかく一緒に暮らしている翔太も、同じ価値観を持つのは、当たり前のようなもので・・。
 二人が幼い頃は、家族で農家に苗植え体験。刈り取り体験などは毎年恒例の出来事として、参加していたくらいだった。
「頂きま〜す。」
 ツヤツヤご飯を目の前にして、待ちきれずに箸をとって口に運ぶのも、松浦の父の代から続いている行儀の悪い習慣だ。
 それでも、一言断って、大きく口を開け、ご飯を食べる瞬間の、翔太の顔は、いつも至福の表情そのものの顔になる。
 その顔を、確認してから、芽生は大慌てでおかずを温めなおして、器にもってテーブルに置いていった。
 みるみるテーブル一杯に,ホカホカ湯気が立つおかずと香の物などが並んで、二人の食卓が整った。
「頂きます。」
 芽生も手を合わせ、箸をとって食事を始めるのだった。
「あのね、今日。生物の先生がさあ・・。」
 食事に夢中になって、言葉がでない翔太に、一方的に話しかけるのも、松浦家のいつもの出来事。「喋ってばっかりいないで、食べろよ。」と、たまに言われるくらいに、食事中の芽生の口は言葉で埋め尽くされている。
(だって、翔太。ご飯を食べると、さっさと部屋にこもっちゃうじゃない。)
 ご飯を口に入れろ。と言われて、いつも思う事はその言葉だった。
 今日の、付き合ってと言われたいきさつも、話そうかと思って、とっさに言葉がつまった。
 芽生のカンのようなものが働いたのだろうか。
 芽生の保護者を買って出た翔太は、ややこしい問題になりそうな異性の出てくるこの出来事に『OK』を出すとは思えない。
 とりあえずこの件は、保留という事にしておいて、彼には黙っておこうと決めて、芽生はどうでもいい話を、とめどなく続けてゆくのだった。
 翔太は、芽生の言葉にほとんどあいずちを打たなくても、ちゃんと耳に入れて、芽生が楽しく学生生活を送れているか、チェックしているのが、分かっているからだった。
 言葉が悪くても、ちゃんと芽生のことは大切に思っていてくれている。
 血の繋がった従兄妹として・・・。